すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク(RINK)
事務局長 早崎直美
大阪市西区土佐堀1-6-3 JAM西日本会館5F
Tel 06-6476-8228 Fax 06-6476-8229
私は、大阪にある外国人支援のNGOで、技能実習生から多くの相談を受けています。
相談のなかから見えてくるのは、実習実施機関に労働基準法違反や技能実習法違反、人権侵害の事実があっても、技能実習生たちが声をあげることを躊躇してしまうという現実です。その大きな原因は、彼らが来日にあたって多額の送り出し費用を支払わされていること、そして、制度上原則として転籍が認められていないことです。
外国人労働者を受入れるどのような制度であれ、労働者自身が不正を告発できず、不適正な運用の実態が明るみに出なければ、制度の改善は望めません。
技能実習制度にかわる育成就労制度において、育成就労外国人が、日本の労働基準が守られ、人権を侵害されない状態で働くためには、技能実習制度に見られるような労働者自身が不正を告発しにくくされている原因を取り除く必要があります。
この点で、育成就労法の規定は非常に不十分なものとなっています。
送出機関に支払った費用の額が基準に適合していることとされ、外国人が来日にあたり費用を払うことを法的に認めています。また、一定の要件があれば本人意向による転籍が認められることとなりましたが、1年以上2年以下の範囲内で転籍制限がかかること、技能や日本語能力が一定の水準に達する必要があることなど、他の労働者にはないさまざまな制約が課されています。このことから、制度がかわっても、技能実習制度で問題とされてきた不適正な運用が改善されることなく継続するのではないかと危惧しています。
このような問題意識から、関連する事項について、以下、省令案概要(主務省令の整備省令)の別紙 を中心に意見を述べます。
15 送出し機関に支払った費用の額の基準(「別紙」第2 育成就労計画に係る規定の整備、以下同じ)について
現在技能実習生は送出機関に多額の費用を支払い、借金を背負って来日しています。彼らは少なくとも借金返済までは、会社に問題があっても我慢して働かざるを得ません。このことが、技能実習制度において債務奴隷とも言うべき事態を生み出す最大の要因となっています。
育成就労法では、「当該外国人が送出機関に支払った費用の額が、育成就労外国人の保護の観点から適正なものとして主務省令で定める基準に適合していること」と規定され、今回、主務省令で定める基準として「育成就労計画に記載された報酬の月額に2を乗じて得た額を超えないこととすること」という案が出されています。
報酬月額の2倍という基準は、育成就労で来日する外国人労働者にとって、決して少ない金額ではありません。また、技能実習生が送出機関以外のブローカー等にも費用を払わされている現実を考えると、この基準によって育成就労外国人が保護されるとはとても言えません。
日本は、ILO第181号条約を批准しており、本来、手数料を労働者が負担すること自体が認められないはずです。日本で働く外国人労働者について、この条約に反する事態を容認することは許されません。
育成就労外国人の保護の観点から、労働者本人が送出機関等に支払う費用はゼロにすべきです。
22 法9条の2第4号ハの主務省令で定める基準
(1)ア 転籍者の割合が、育成就労外国人の総数の「3分の1を超えることとならないこと」および
(1)イ 都市部の場合、非都市部(指定区域)からの転籍者の「占める割合が6分の1を超えることとならないこと」について
このような数的制限によって、育成就労外国人から本人意向による転籍の機会が実質的に奪われることになります。冒頭で述べたように転籍の自由の保障は、制度の適正化を図るために必要です。同時に転籍を希望する労働者個々人の実情も考慮され、転籍が認められるべきです。本人意向による転籍を認めると言いながら、様々な制限などのため、転籍が思うようにできなくなってはなりません。
技能実習生から相談を受けていると、仕事の内容をきちんと知らされないまま来日している技能実習生に会います。思いもよらなかった職場環境に遭遇し精神的にダメージを受けている人もいました。また、技能実習生は原則3年間同じ実習実施機関で、同期に来日した実習生と働き、同じ宿舎で生活します。限られた人間関係のなかでトラブルが起き、精神的に追い詰められてしまう技能実習生もいます。このような事例では、「やむを得ない事情」での転籍が認められにくく、転籍を言いにくい場合もあります。
私が支援した技能実習生のなかには、上記のような事情で転籍を希望し、無事転籍ができたことで、その後技能実習を継続、無事修了できた人たちがいます。転籍によってその技能実習生が能力を発揮できる職場に出会えたのです。
育成就労制度の受入れの仕組みは、技能実習制度をほぼ踏襲しているため、上記のような事例も出てくると思われます。来日した育成就労外国人が、当初の希望通り育成就労を全うできるようにするためにも、彼ら一人ひとりの実情に配慮して転籍を認めるべきで、受入機関での転籍者の割合や、都市部への転籍者の制限などを設けて、転籍先の枠を狭めるべきではありません。
(6) 転籍する「育成就労外国人の取次ぎ及び育成就労に係る費用として法務大臣及び厚生労働大臣が告示で定める額に6分の5(1年6月以上2年未満の場合にあっては3分の2、2年以上2年6月未満の場合にあっては2分の1、2年6月以上の場合にあっては4分の1)を乗じて得た額を」転籍元の「育成就労実施者に支払うこととしていること」について
この規定によっても育成就労外国人の転籍の機会が奪われることになります。
また、このような取次ぎ及び育成就労に係る費用の分担は、結果的に労働者を売買するというにも等しくなってしまいます。そもそもこの制度以外で働く外国人労働者や、日本人労働者の場合には、どのようなタイミングで転籍しても転籍先がこのような負担をすることはありません。育成就労制度において、こうした費用の分担を認めることになれば、その悪影響は大きいです。このような費用分担は、やめるべきです。